顧客LTVを向上させる、ブランドとの感情的な結びつき。それらを構築するのは、「体験型プログラム」。
商品を購入するとポイントが貯まり、貯めたポイントは次のお買い物時に割引として利用できる。さらに、購入金額によって会員ランクが割りふられ、ランクが高くなればなるほどポイントの還元率があがる。
従来のメンバーシッププログラムは、このような購入による金銭の取引によって、ポイント還元や割引を得られる設計が主流でした。ところが、近年そのプログラム内容に変化が生じています。その内容は、「体験型プログラム」の増加です。
具体的には、特定の体験によってポイントを得られたり、特典としてイベントに参加できたり、体験を伴うようなプログラム内容をよく見受けられるようになりました。既存のプログラムを刷新する企業・ブランドも増えてきています。
「体験」が注目されている背景にはさまざまな要因がありますが、以下が主な要因と考えます。
- アフターコロナで、消費の価値観がモノ消費からコト消費・トキ消費へ大きく変化
コロナ禍の外出制限により体験が制限されたことの反動で、アフターコロナの環境下ではモノの所有よりも、特別な時間や体験を得ることに価値を見出す「コト消費」「トキ消費」へと消費傾向がシフトしています。実際に、2023年のコト消費への投資は2024年に比べて19%増加しています。
参照:https://www.nikkei.com/article/DGKKZO82841650W4A810C2EA5000/
- SNSの普及により、特に若年層の間で体験の価値高まっている
若年層にとって体験は、SNSでシェアすることで社会的承認を得られる重要なコンテンツになっています。体験は単なる一時的な楽しみではなく、自己表現のための価値としても捉えられています。
- 企業が顧客のデータを収集し、商品開発やマーケティングに活かすように
個人情報保護の観点から、各国でサードパーティデータの取得の制限が課されるようになったことを背景に、企業は直接顧客のデータ、いわゆるファーストパーティデータの取得や豊富化を進めています。そうして取得されたデータは製品開発やサービス改善・さらにはマーケティングにも活用されています。体験型プログラムは、体験を通してコミュニケーションが生まれるため、定量的なデータに加え、顧客の嗜好や感情など、豊富な定性データを収集しやすく、ファーストパーティデータの価値を高めることができます。
さらに、体験型プログラムは、従来の金銭的なやりとりのみのプログラム内容とは違い、体験を通じてブランドと接することで、感情的な結びつきを構築する点が特徴的です。
顧客と感情的に結びつくことが実際に売上にも影響を出しているといったデータもあります。Mordern Retailによると、「顧客があるブランドに対して感情的な結びつきを感じていると、その顧客のLTV(ライフタイムバリュー、顧客生涯価値)は4倍になり、平均で20カ月も長くそのブランドの顧客であり続けることが判明している」とのことです。
これらの理由より、ブランドと顧客の間に感情的な結びつきをつくる「体験型プログラム」は、国内外問わず増加しています。ここからは具体的な事例に注目して、どのようなプログラム内容を実施しているのかをみてみましょう。
体験型プログラムの国外事例
サーフィンで波に乗るたびにポイント付与
まずは、世界的サーフウェアブランドの「Rip Curl」です。Rip Curlでは、顧客は1ドルごとに次回の購入で使える100ポイントを獲得することができる他に、サーフィンで波に乗るたびに200ポイント獲得することができます。
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引用元:https://www.ripcurl.com/us/explore/club-rip-curl.html
乗った波の回数を判定するのは、同社が販売している「Rip Curl Serch GPS」という腕時計型の端末です。端末にはGPSを搭載しており、現在地の潮汐データを表示することができたり、IOSアプリもしくはPC版アプリと連動すると、ライディングのスピードやサーフセッションの時間などの記録を確認することができます。
商品を使いつつポイントが貯まるという仕組みで、顧客はよりその商品を活用しながらインセンティブを得られる経験ができます。これらから、ブランドへの愛着をより一層深めることができそうです。
金銭的なインセンティブ以上に、うれしい体験を得られる価値提供
アパレルブランドの「Kith」では、保有しているポイント数によって3つのランクにわけられ、ランクごとに特典を受けられるメンバーシッププログラムを展開しています。Kithのランク特典は、ただの商品の値引きではありません。特別商品の提供や、新商品の早期アクセスなどが主な特典です。
さらに、ランクが上がるほど、店舗に並ばずに入れる権利を得たり、特別イベントに招待されたりと、体験によるインセンティブを感じられる特典を得られます。
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引用元:https://kith.com/pages/kith-loyalty-program
こうした体験の数々は、単なる金銭的なやりとりでは生み出せないような感情を顧客に与えることでき、ブランドとのつながりを強化することが期待できます。
体験型プログラムの国内事例
日本国内においても、体験をメンバーシッププログラムに組み込んでいる企業は増えてきています。ここからは、日本で実際に取り入れている企業の事例に注目してみましょう。
アディダスジャパンの「adiClub」ーー ランニングを中心にスポーツするとポイントが得られる
アディダスジャパン株式会社が提供するメンバーシッププログラム「adiClub」に注目しています。「『好き』でたまる、『もっと好きに』に換えられる。」をコンセプトにしているadiClubでは、ランニングなどのアクティビティを記録するアプリ「ADIDAS RUNNING」と連携し、対象のスポーツをすることでポイントの獲得ができます。
例えば、ランニングやウォーキング、サイクリングは走行距離に応じてポイントが付与されます。ADIDAS RUNNINGは、顧客のレベルに合わせてスポーツの目標やプランを自由に設定し、計測・記録を行うことができるため、顧客の習慣に合った方法で続けられます。スポーツをする目的で始めた顧客も、スポーツをした結果としてポイントといった特典を得ることができます。
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引用元: 「ADIDAS RUNNING」アプリ - ポイント獲得方法
adiClubは、Rip Curlのメンバーシッププログラムと同じように、商品を活用して、顧客の好きなことをするだけでインセンティブを感じられる仕組みになっています。
カネボウのKATE MEMBERSHIP PROGRAM ーー バーチャルメイク体験をするとポイントが得られる
続いて、株式会社カネボウ化粧品のKATE TOKYOで提供するメンバーシッププログラム「KATE MEMBERSHIP PROGRAM」についてみていきましょう。「メイクの可能性を広げる」をコンセプトにしているKATE MEMBERSHIP PROGRAMでは、「KATE ZONE」と呼ばれるバーチャル空間でメイク体験ができたり、商品情報について知ることのできるサービスを提供しています。気になる商品があればその場で購入することもできるため、KATEでは没入型体験ECとして実施しています。
KATE ZONEの1番の特徴は、バーチャルでメイク体験ができることです。種類のメイク体験がありますが、その1つの「FACEHACK」では、スマートフォンで顔写真を撮影すると、目の角度やフェイスライン、黄金三角比などを細かく分析します。その分析結果をもとに顔タイプを診断し、それぞれの顔タイプに相性のよいメイクアップを顔写真に合わせて提案します。
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引用元:KATE ZONE
メイクアップに合わせたKATEの商品が提案されるので、ユーザーは気に入ればそのまま購入することが可能ですが、購入を実施しなくてもメイク体験を実施するとポイントを獲得することができます。
KATEのコアターゲットは10代後半から20代前半の若年層のため、消費者行動のトレンドの影響を最も受けている層です。そのため、体験型プログラムとの相性は非常によいのではないかと感じます。
参照:https://news.yahoo.co.jp/articles/99e2312498c8b0a7597d137d618407c6cbb64bc8?page=1
まとめ
メンバーシッププログラムでは、体験型のプログラムがトレンドになっていることについて、国内外の事例を交えて確認しました。体験を交えることで、顧客は商品とその周辺の知識を得ることができるだけではなく、体験を通してブランドへの感情的なつながりの意識が生まれたり、ブランドのコンセプトへの共感を生むことができます。それらの感情的なつながりが、結果として長期的な売上に貢献し、ブランドの成長にもつながります。
リワイアでは、Shopifyで体験型のメンバーシッププログラムの導入を支援しています。主に、会員ランクアプリ「らんキィ」とポイントアプリ「どこポイ」を中心としたアプリを使って、簡単に導入できるようサポートも実施しています。
メンバーシッププログラムの導入をご検討中の場合は、お気軽にご相談ください。